「あ、奈槻さん!」
「ごめん、待たせたかな?」
あれから俺達は頻繁に連絡を取り合い、一緒に出掛けるようになった。
今日は莉子ちゃんが夏休みということもあって、都内の水族館まで足を運んだ。
「平気です!水族館なんて久しぶりだから、楽しみで寝れませんでした」
ふわりと笑う彼女を見てると、心がほっこりとしてくる。
「じゃあ、行こうか」
入り口を抜けて、少し薄暗い館内へ進むのをいいことに、さりげなく彼女の手を取った。
僅かな光の中、ちらりと隣を伺えば、俯き加減ではあったが赤く染まった頬が見える。
ねぇ、莉子ちゃん。
それは期待しても良いのかな?
繋がれた手に、少し力を込めた。
「わあ!ペンギン凄く可愛い!」
「お、ホントだ。つか、水族館なんか初めて来たなぁ」
「東京タワーとかは行きました?」
「いや、観光地とかは全然かな」
東京に出てきてからの二年は、その大半を歌舞伎町で過ごしていたのだから仕方ないだろう。
同伴にしたって、買い物やら食事やらだった。
そういえば、彼女らしい彼女も居なかったような。
「じゃあ、今度は東京タワーに行きましょうね」
「…うん」
夏休みだから、本当は毎日だって一緒に居たい。
でも、まだ俺は彼女に嘘を吐いている。
だから俺からは誘えない。
この先の約束なんて不確かなものだから。
それでも君は、一緒に居てくれて
少しでも、俺との未来を想像してくれるんだね。
それが本当に嬉しくて、水槽の中の水みたいに、俺の瞳は揺らいでいた。