18歳で高校卒業すると同時に、田舎にある家を出た。

家族は何処にでもあるような、ごくごく普通の一般的なもの。

父と母に兄が一人。兄は出来が良くて、医者を目指して今は大学四年生。
ありきたりな話で、そんな兄と比較され続けた俺は家を出て東京を目指した。

東京に憧れが無かったといえば嘘になるが、とりあえず目指すには最適な場所だと判断した。
噂に聞く歌舞伎町に行けば、仕事に困ることはないだろう。

特に自慢したことはなかったが、今まで女に困ったことはない。
頭は全部兄貴に持っていかれたけど、その分顔だけは良かった。
だから最終的にホストでもやればいい、そんな考えがあったのだ。

実際、高校の時にバイトしていた貯金も、マンションを借りて所持金は既にゼロ。
家賃の高さや一人で生活することの大変さに初めて壁にぶち当たった瞬間だった。

そうして、歌舞伎町という街にも慣れ、二年以上の月日が流れたある日。




「あれ?ナツキじゃね?古澤奈槻!」

「……?島田、先輩?」

「そー!俺オレ~!」

金髪にスーツ。いかにもな出で立ちで街に溶け込んだ男は、高校時代バイト先で仲良くしていた先輩だった。

「まさかオマエに会うなんてな~!こっち出てきてたんだ?今何してんの?って、見れば大体分かるけどさ」

そう言って先輩は笑った。
この街で、サラリーマンと異なるスーツを着ている人間の職種は限られてくる。

「いや、ヤル気のない只のホストっす」

「なんだよ~顔良いんだからヤレんだろ?」

「ははっ、なんか向いてない気がして…」

元々、あまり人に媚びを売るのは好きではないし、毎日無駄な笑顔を作るのにも疲れていた時期だった。

「…へぇ。じゃあさ、オマエに丁度良い仕事あんだけど」

まるで昔のように、悪さをする時と同じ顔で先輩は笑った。