一息置いて、智子は作業をする手を止めると、あずみを見やる。 「あたしね、婚約者がいたの」 何とも言えない寂しげな瞳で、智子は言った。 「え? 道彦さんじゃないの?」 「ヤダ、道彦さんじゃないわよ。あたしの好きな人は、大成さんって言うの……幼馴染でね。道彦さんの弟なの」 そう言って智子は笑って見せたが、どことなく目は笑っていない。