シュンの呟きでふと思い出したように、花梨が一人の少年に目を向けた。

なるほどあまり見覚えのない顔だ。


『ああ、これユウキ。なんだっけ? か…かの…カノウ?』


『それはいいんだよ』


『あら。そうなの?』


「会ったことあったっけ?」


きょとんと首を傾げる花梨だが、仮にあってたとしてもあれは完全に記憶のない顔だ。

ここはもう、会ったことはないことにしておけ。


「ところでまおちゃん、ひどく顔色が悪かったみたいですけど…体調でも?」


「ああ…少し無理をさせてしまってね。本当は休ませたいのだが…」



―カラッ…



「ん?」

「お?」

「あ?」

「え」

「……」


『どうかお休みください奥様』


『奥様って態度!?』


『失礼は承知です。しかし私は医者ですので…』


『世間から永久追放してやろかこのこのっ』


…何気に恐ろしいこと言うようになったんじゃないのまおちゃん…。


といってもまあ、言いたくもなるかもしれない。

まるで子供のようにつまみ出されているわけだから…。


『お父様もいらっしゃいますしこちらで…』


『父様なんかいいからかっくん!』


「今私のことどうでもいいとか言わなかった!?」