「海…真っ黒ですね…」



最初に口を開いたのはあたしだった。



どんなことでもいい。


些細なことでいいから話したかった。



ずっとそう思っていた。


今、それが実現しているうちに。



先輩は遠くを見たまま、静かに口を開けた。



「あたしは朝の海より夜の海の方が好きだわ」



「夜の…海?」



あたしは小さく首を傾げる。


先輩はずっと遠くを見ていた。



美空先輩は白か黒かと聞かれれば、間違いなく黒と答えるだろう。



オーラも黒いよね。


そう、周りの人は言うかもしれない。



確かにそうだ。


先輩の印象は〝黒〟。



でも、本当は何色にも染まらない〝透明〟の気がするのはあたしだけ?



白でも黒でもない。


どこまでも透き通る〝透明〟。


色のない〝透明〟。