誠也は不思議そうにあたしを見た。

「何で佐奈がここにいんの?愛美は?俺、愛美に呼ばれて来たんだけど」

「あたし……言いたいことがあって…いい?」

誠也は一瞬気まずそうに視線をずらし、そしてまた戻した。

瞳には、冷たい色。

「何?てみじかに頼む」

「あのね…あたし……」

愛美の言葉を思い出す。

「あたし……」

涙が出そうになる。

こんなこと、言いたくない…!

『あのさ、誠也に嫌い、もう二度と話しかけないでって言ってほしいんだけど。ほら、あたし、誠也の気持ち試したいんだ…佐奈には亮君いるし…誠也ならいいでしょ?それとも何か出来ない理由あるの?』

愛美に見透かされているようで怖かった。

愛美の瞳には何か怖いものを感じた。

怨念にも近い、何か。

理由は…好きだから。
でも愛美にそんなこと言えない…!

だから…だから……!

「あ、たし…誠也が嫌い…な、の…二度…と話しかけ…ないでっ!!」

「は……………?」

あたしは涙が溢れてきた。

見えないように隠す。

誠也の表情が見たい。

でも、怖いし泣いてんのもバレちゃう。

あたしは堪えられなくて、ちらっと見た。

ズキン…!

誠也の表情は、傷ついているのが明らかだった。

そんな顔しないで…。

今すぐに笑顔で、嘘だよ、愛美に頼まれたのって言いたい。

でも言えない。

誠也はあたしの涙に気付いてしまった。

「佐奈……っ!?おまっ…何で泣い…」

「ごめんっ!!!」

心配して近寄る誠也をはねのけて走り、屋上を後にした。

「佐奈っ!佐奈っ!!!!」

止めて誠也…。

あたしを呼ばないで……。

今のあたしは、愛しいあなたに呼ばれてしまうと簡単に戻ってしまう。

だから呼ばないで。

愛美と幸せになって。

あたしを無視してくれても、もう構わないから。