穂波は俺の腕を無言で掴み2階の部屋に俺と一緒に入った。

しかも雅樹おいてきぼり。
何でだよっ!?

パニックになる俺を無視している穂波は、俺の腕を掴んだままポツリと呟いた。

「左藤君…」

「は、はい?」

少し声が裏返ってしまった。
恥ずっ…!

穂波はゆっくりと俺を見た。

目が少し潤んでいるのは気のせいか?

「忘れて?」

「え?」

忘れてって…何を?

「学校で…言ったでしょ?好きな人のこと」

「あ、ああ」

「あれ、冗談だから」

「は…?」

冗…談…?

あの表情が…嘘…?

穂波は俺を冷たい瞳で見つめた。

ふと俺との視線と交差する。

思わず視線をそらしてしまった。

俺は何でそらしてしまったのかわからない。

何だか考えがぐるぐる廻る。

「あたしの好きな人は左藤君じゃないし、隣の席の閑野君が好きだから。ちょっとからかっただけ」

からかった?

あの雰囲気が?

「私演劇部に所属してるし」

ああ、だからあんな表情とか雰囲気は簡単ですってか。


ちょっとムカつく。

「ぁあ、成る程」

「上手だったでしょ?」

「微妙」

「あれ?信じなかったの?」

「今時有り得ねーだろ、あんな設定」

「…そうだね」

穂波はちょっと俯いた。

本当は少し信じてた。
でも嘘だったんだな。

ガチャッ

「何してんの」

ドアが開いて雅樹が来た。

穂波は何も無かったかのようにニッコリした。

「何も?」

「つーか愛美ちゃんから電話。携帯掛けても出ねぇからって」

穂波は慌てて携帯を見る。

「やばっ!着信来てたしっ!」

穂波は急いで電話の所へ駆けていった。