「亮の彼女になったんだ」

ドクン…!

「そう…か」

「うん…」

引きつるな、俺。

普通にしろ。

普通にしろ…!!

拳を強く握りしめた。

「おめでとう。よかったじゃん。亮が彼氏なら安心だな」

「………っ!そ、だね。ありがとう…じゃあ、それだけだから」

「あぁ。じゃーな」

バタン…

ドアを閉める音が虚しく響く。

『あたし………亮の彼女になったんだ』

亮の彼女が…佐奈?

佐奈は亮を選んだ…?

俺は笑った。

何故か笑いが込み上げた。

「ははっ…!よかったじゃねぇか、佐奈が幸せっ……で………」

力が抜け、ドアにもたれ掛かりながら座り込む。

視界がぼやけてよく見えない。

「よかっ…たん…だ……ウッ……アァッ……」

鳴咽と共に涙が止まらない。

俺は佐奈が笑顔になることを祈った。

なのに……

悲しい

苦しい


胸をナイフでずたずたに切り裂かれたような痛み。


『佐奈は亮と恋人になった』


事実がナイフとなって俺に襲い掛かる。

出てくるのは血ではなく、溢れる程の佐奈への想い。

好きだ。

誰よりもずっとずっと好きだ。

この悲しみの分。

この苦しみの分。

君には幸せになってほしい。

笑っていてほしい。

いつも笑顔で明るくいてほしい…。

「佐…っ…奈……アァ…」

手で顔を覆っても涙は指の間をすりぬけて落ちていく。

また、恋をした。

君に出会ったから恋をした。


「ありがとう…佐奈……」

そんなときだった。

「……………………また佐奈?」

「………………ッ!?」

ぎょっとして振り向くと愛美がいた。

なんて悪いタイミングだ。

愛美は嬉しそうに言った。

「佐奈、彼氏できたんだね。しかも、亮君なら、よかった」

「……そうだな」

涙が瞬時に止まる。

俺の頬はまだ濡れてはいるが。

「誠也…ちょっと来て」