「謝らなくていいよ、鮎川…謝る必要はない」

すると鮎川は首を小さく横に何回も振った。

俺の手に涙がポタポタ落ちる。

「ちが…違う…。あたし、わかってた…佐奈と…誠也君が…両想いなの…わかっ…てたのぉ……でも…あたし…あたしぃ……」

鮎川は震えながら強く俺の手を握った。

もう俺の手は涙でぐしょぐしょだった。

「鮎川……鮎川は悪くない…だから泣くなよ…」

それでも鮎川は泣き続ける。

まるで独りになってしまった子供のように…。

助けてほしいけれど、手を伸ばして相手の手を握り、闇から出ることができない孤独…。

鮎川は、それをじっくりと味わっていた。

「あたし………」

鮎川は手を離して顔をあげた。

鮎川の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

「あたし、佐奈に伝えてくるっ…!」

「鮎川!?」

鮎川は俺の伸ばした手を振り払い駆け出した。

慌てて鮎川を追い掛ける。

が、先に亮が立ち塞がり、鮎川を止めた。

「ッ……!誰!?どいてよっ!!!」

鮎川は悲鳴に近い声で怒鳴った。

そんな鮎川を落ち着かせるように、亮はそっと鮎川を抱きしめた。

「なっ…!離してっ!!」

「佐奈のとこには…行くな」

久しぶりに聞く亮の低い声。

この声は大体冷静過ぎるときの声。

しかし鮎川は勢いよく亮を振り払った。

化粧は崩れ、髪は乱れてぐしゃぐしゃだ。

「嫌っ!何で!?あたしは…こんなにも誠也君が好きなのに…何で…何で佐奈なのっ!?誠也君の彼女はあたしなんだよ!?」

「鮎川…それは……」

きちんと鮎川に説明しようとした時だった。

やっと立ち上がった雅樹は、鮎川のところまでゆっくり歩き、そしてーー

「きゃっ!ま、雅樹君!?」

鮎川の腕を掴み、俺のところまで引っ張って来た。

その時の雅樹は、泣きそうな顔をしていた。

雅樹は俺のところに来ると、鮎川の腕をそっと離した。

そして優しく鮎川の頭を撫でた。

「雅樹君……?」