雅樹はゆっくり俺を見上げた。

涙が流れてくる。

「でもな…俺が好きだと佐奈はまた、サヤや翔太みたいに…。それだけはダメなんだ……」

「誠也…お前まだ………」


「誠也…く…ん…?」


高い音程の声に振り向く。

そこには………。

「鮎川…何でここに…」

思わず少し後ずさりしてしまう。

まさか……まさか………。

鮎川はその場にとどまり、ニコッとした。

「誠也君が心配だったから捜しに来たの」

「そ、そうか」

よかった…聞かれてなかったらしい。

俺の好きな人は…佐奈だということを。

鮎川は駆け寄り、俺の手をぎゅっと握った。

「行こう?」

「あ、ああ」

「でもその前に…」

「ん?」

鮎川は握った手に力を込めた。

少し震えている。

「誠也君の好きな人って…誰…?」

ドキッ…!

「鮎川だよ」って…言えない…。

何だか見透かされているみたいで……。

佐奈が好きなんでしょ?って………。

鮎川は俺の手を見つめながら動かない。

「ねぇ……誰なの…?」

無言の俺。

でも、覚悟を決めた。

「俺は……」

「佐奈、なんだよね」

「鮎川…!何で…!」

「さっき、ずっと聞いてた…」

鮎川は小刻みに震えている。

なのに…。

俺は動かない。

いや、動けない。

本当は鮎川を優しく抱きしめてやりたい。

震えをなくしてやりたい。

でも、それはしてはいけない。

鮎川に気持ちがないのに、していい訳がない。

「ごめんなさい……」

鮎川が震えながら謝り始めた。

何で…。

鮎川は悪くない。

悪いのは俺だけだ。