「…落ちついた?」

男の子の問い掛けにゆっくり頷く。

あたし、初対面の男の子にかなり心許してたよ…。

「ありがとう、えーっと…」

「狩野亮(リョウ)だよ」

か・り・の・りょ・う。

頭の中でゆっくりリピートする。

あたしはお辞儀した。

「ありがとう亮くん」

「いえいえ」

亮君はニッコリするとあたしをひょいと立たせた。

「ちょっとここにいて?」

亮君はあたしを覗き込むと走り去った。

やだ…また、どっか行っちゃうの…?

背中は見たくないよ…。

亮君はすぐに戻ってきた。

少し息切れしている。

「亮君、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。はい、これ」

「へっ?」

亮君はニコッとしてバニラアイスを差し出した。

何でアイス?

アイス好きだけど…怪しいなぁ。

「あー、怪しいとか思ってるだろー」

ぎくっ!

「あ、あははー?」

「やっぱり…。普通にすぐそこの海の家で買ったやつですー。ほれ、やるよ」

ちょっと怪しいけど…悪い人じゃなさそう。

あたしはアイスを受け取った。

「ありがとうっ」

「あ、やーっと笑った」

「え…?」

もしかして…あたしが笑顔になるように……?

何だか照れる…。

あたしは一口アイスを口に含んだ。

バニラの甘い味が広がる。

「ところで君、名前は?」

「あ、忘れてた。あたしは穂波佐奈だよ」

「さら?」

「違うよっ!さーーなーー!」

「ぎ?」

は?

亮君は笑っている。

さーなー+ぎ?

さーなーぎ?

さなぎ!?

「あたしは虫かっ!」

「あはは、うそうそ」

亮君は笑いながら砂で何か作っている。

山?谷?

「何作ってるの?」

「んー?狩野城」

思わず吹き出す。

「何それ〜」

「笑わなくたっていーだろ」

亮君はちょっぴり拗ねて狩野城を作っている。


亮君は狩野城と言ってるけど、あたしには砂山にしか見えない。

あたしは笑いを堪えながら、亮君を見た。