俺は愛美にそっと上着を掛けた。

愛美がビックリして俺を見ている。

俺は構わず折りたたみ傘を取り出し愛美に差し出した。

愛美がそっと受け取る。

雨で化粧が落ち、すっぴんになっている。

まだ幼さが残る顔。

「風邪引かねぇようにしろよ?」

「誠也…」

どうやら、俺は冷たい男にはなれないみたいだ。

愛美はクスッと笑った。

「誠也らしいね」

「何だよ、悪ぃか?」

「全然?ありがと」

愛美は立ち上がりニコッとした。

俺は傘を差しながら、そっと愛美が濡れないようにした。

「いいえ。ほら、傘させよ?」

「分かってるよ」

愛美が傘をさす。

そしてまたニコッとした。

「誠也がフッたの後悔する位、いい女になってやるから」

「そりゃ、どーも?」

俺と愛美はお互い笑った。

この時、まだ始まってさえいなかったなんて、気付きもしないで。