愛美はニヤッとした。
そして俺の耳元で呟いた。
「あたしは、誠也が好き。でも、佐奈は亮君が好きなんだよ」
佐奈が………?
愛美はキスしようとする。
「だから、ね…?」
佐奈は、俺が好きじゃ、ない……?
俺は拳を握った。
そして愛美をまっすぐ見た。
「そんなことは無い」
「……!!!」
愛美は唇ぎりぎりで止まった。
俺は無理矢理、愛美を引き離した。
「佐奈は、そんな奴じゃない」
好きだと言ったあの瞳に、嘘は無かった。
さっきのは事情があったんだ。
俺は愛美を冷たく見下ろした。
「帰れよ。俺は佐奈を裏切るつもりは無い。たった今、お前と別れた」
「そん…な、酷い…」
「あぁ、俺は酷いよ。でもな、俺が好きなのは佐奈だけなんだよ。分かったら帰れ愛美」
愛美はわっとその場で泣いた。
俺は勿論助けない。
慰めもしない。
冷たい?
分かってるよ、んな事。
俺だってキツイ。
だけどな、愛美は愛せない。
佐奈だけなんだ。
愛美は俺を涙だらけのぐしゃぐしゃの顔で見ると、走り去った。
バァンッ!
玄関のドアが思い切り開く音がする。
窓を覗くと、愛美が玄関にしゃがみ込んで泣いている。
雨が降ってくる。
なのに、濡れながら泣いている。
「だー、もうっ…!」
俺は上着を持ち玄関に向かった。
やっぱり愛美はまだ泣いている。