「後で捨ててもいいから」


まるで、あたしが言おうとしていたことが分かっていたかのように、市川君の言葉が遮った。


「今だけでもいいんだ……持っといて」

「市川君……」

「そろそろ昼休み終わるね。こんなトコ見られたら先生困るだろうし、俺、もう行くよ。また放課後」


時計を見た市川君は、じゃあ、と美術室を出て行った。

あたしの手に、メモを残したまま。


「……捨てられるはずないよ……」


あたしにとって、これはただのメモじゃない。

市川君があたしにくれた、特別なメモ。


それを、どうしたら捨てられるって言うんだろう?


彼が初めて残した、「ごめん」と書かれたあの紙切れもまだ捨てられずにいるのに。


テーブルの上にある空になったお弁当箱も、このメモも。

一つ一つに、市川君との思い出ができていく。


大也だけを好きでいなきゃいけないのに……


思い出が増えるたびに、あたしの気持ちも大きくなってる。



だけど、そんな時間も長くは続かなかった。

嘘の下手なあたしが、いつまでも大也に隠し通せるわけもない。



――この、数時間後だった。


大也があたしの秘密を知るのは――……