「あ、そうだ。先生にコレ渡しとく」


そう言って市川君がポケットから出したのは、小さなメモ。


「なに、これ?」

「俺の携帯番号」

「えっ?」


手の平にのせられたメモをよく見ると、確かに番号らしき数字が並んでる。


「どうせ、番号交換とかできないんだろ?」


市川君の言う通りで、実習生のあたしには生徒に個人情報を教えちゃいけないっていうきまりがある。

携帯番号やメールアドレスを交換することなんかは、特に厳しく禁じられてるし……


「だからさ、俺のだけ教えとくよ」

「だけど、」

「電話かけてなんて言わないから。持っててよ」


いいのかな……

あたしはこれを受け取って、本当にいいの?


頭に浮かぶのは、大也のこと。

市川君を忘れようって決めたのに……あたし、何してるの……


お弁当の約束に、携帯番号なんか……

これじゃ、気持ちを抑えるどころか、逆に大きくなっちゃうよ。


やっぱり、受け取っちゃダメだ。


「市川君、これは――」