体についた傷と違い、心の傷は治りが早いものではない。私は去年の大きな失恋の痛手から完全に完治しているとは言い難いが、それでも社会人としてそれなりに前向きに毎日を過ごしていた。

 そんなある日の夕方の事だ。
 会社からのいつもの帰り道。
 同僚からの飲みの誘いにもいい加減飽々していた私は、その誘いを断ってしばらく振りに真っ直ぐ帰宅する事にした。

 駅からアパートまでの通い慣れた道。
 いつもよりもちょっと早い夕方のこの時間に、私は新しい恋に出会った──。


  『60days after…』