「それじゃあ…」

 始めに会った、あの通りまで来て、彼は私に向かって言った。

「…あ、」

 私からの言葉を待たずに、背を向けて歩き始めた彼。

 私は返しそびれていた彼のハンカチを右手に握りしめていたのを思い出し、遠ざかって行く彼の背中に向かって声を掛けた。

「ハンカチ、洗って返すから! 明日、またここで!」

 彼は歩きながら振り返らずに、分かったと言う様に頭の上で手を振った。



「名前ー、教えてよ!」

 ぐんぐん遠くなる彼に届くように私は大声をあげた。

 その私の言葉が届いてから、始めて彼は振り返り、私に笑顔で言葉を返した。

「ミノル。…あんたは?」

「美嘉ぁー!」

 私は彼に向かって手を振る。
 彼も、今度は私に向かって手を振り返してくれた。

 彼が通りの向こうに消えて行ってしまってからも、私は彼の眩しい笑顔を忘れられずに、しばらくその場に立ち尽くしていた。

「明日…」

 私は彼のハンカチを胸に抱きしめ、芽生え始めた恋の予感に思わず頬がゆるくなるのを感じた。

   JUST BECAUSE<了>