「…これにしよう」

 彼は公園を囲む植え込みの中に一本だけ生えている大きな木に向かって呟くと、近くに落ちていた手頃な小石を拾って木の根元を掘り始めた。

 私は彼の後ろに馬鹿みたいにつっ立ったまま、手伝おうとも言えずに所在なげに彼の大きな背中を見下ろした。

 跪いたジーンズや上着の袖が土で汚れるのも構わずに、彼は黙々と穴を掘っていく。

 私はいたたまれずに自分の小綺麗に飾った指先を見つめた。
 指先には今時の流行に違わず、小さな星を散りばめた可愛らしいネイルがある。

 私がそんなことを思っている間に彼は穴を掘り終えて、死んだ子犬を優しく寝かしつけた。
 そして静かに土を被せて行く。

 私は胸がキュと痛くなり、手が汚れるのを覚悟して彼の隣にしゃがみ、子犬に土を掛けてあげた。

「…手、汚れるぞ」

 ほんの少し手を止めて、彼が私を見つめて言った。

「ううん。大丈夫」

 私は恥ずかしさと誇らしさと、何だか解らない感情で胸が一杯になり、気が付くと涙が溢れていた。

 彼はまた無言で土を掛ける。
 私は泣きながら鼻をすすり、でも汚れた手で顔を覆う事も出来ずに子犬に土を掛け続けた。