綺麗な人だな、と思った。心も顔立ちも。
 私は車に引かれた子犬よりも、たった数分前に出会ったこの男性に惹かれ始めていた。

 年の頃は私と同じ位だろうか。
 髪は短く切り揃えていて、端正な顔立ちに似合わない深い立て皺を眉間に刻んでいる。

 それは多分、この死んだ子犬を思っての事だろう。
 幅広の背中は立ち上がると小柄な私を包み込む程に大きく、胸元に合わせた両手の中には小さな子犬の死骸を抱えていた。

 彼は私に構うでもなく、無言でそのまま歩き出した。
 私はその死んだ子犬をどうするのかと問いかける事が出来ずに、彼の大きな背中を追いかけていった。



「…ここにしようか」

 彼が立ち止まったのは住宅地にぽつんとある『緑町児童公園』という名の小さな公園の前だった。

 この緑町児童公園はブランコが二つとシーソー、背の低い滑り台が一つあるだけの小さな公園だった。

 もう少し早ければ近所の主婦や幼い子供たちで賑わっていたであろうこの公園も、薄暗くなった今の時間では人影一つ見えない。

 そして彼はこの公園の中に足を踏み入れて行った。