僕は瞳に焼き付ける。
 彼女の笑顔、何気ない仕草。


 そして気付いてしまった──左手の薬指に光るリングを。




 約束の時間がやって来た。
 シンデレラの魔法が解ける。

「徳山さん、」

 僕は言葉に詰まり、彼女を見つめる。

 彼女も少し不思議そうな瞳で僕を見返す。


 そうなんだ。気が付けば僕たちはもういい年の大人なんだね。

 お互いに守るものもあるし、キミには待つ人もいるんだろう。



 彼女はわずかに首を傾げ、無言で僕に言葉の先を促す。

 僕は、呑み込んだ言葉の代わりにぎこちない笑顔を作った。

「ふふふ。変なの」

 彼女は呆気に取られて、そしておかしそうに笑い出す。

「あはは」

 僕もつられて笑った。

 懐かしさに心奪われた僕たちは、ほんの一時だけ学生の頃の二人に戻れた気がしたのだ。