夕暮れ時の図書室。

一冊の本を読み終えた『少女』は、一人、涙を流しつづけた。

自分の身体が、日に日におぞましく変化していく中で、出会った本。


作中、自らの醜さから創造主に厭われ、怪物とよばれた『彼』は、天界から追放された堕天使の物語を読み、涙する。


-愛されないならば、なぜ、自分を創った-


『少女』は、怪物に自分を投影した。

窓ガラスに映る、己の姿。

なぜ、この、からだ、に生まれた。

なぜ、この、こころ、が生まれた。

なぜ、自分が生まれた・・・・・・!


《なるほど、メアリ・シェリーの『めあり』なのか》

 
《あの本を読んだとき、わかったんです。ああ、自分の苦しみの源は、こういうことなんだって。確かに、怪物の名前は小さい頃から知ってたました。ただの怖いお化けだと思ってました。でも、実際の小説を読んだら、これは、わたし、のことなんだって・・・・・・》


《そして君は、その怪物とともにルシファーとも、自分の存在を厭う創造主への哀しみを共有する、というんだね》


《お読みになったんですか? 『フランケンシュタイン』を》


《ミルトンの『失楽園』を、昔ね》


《読み終わって、その小説の作者が女性って知ったんです。だから、それまで名前がついてなかった『わたし』に、そのひとの名前をつけることにしたんです》 

《だから、めあり?》


《はい。だから、古臭くても、中途半端でも、大事な、わたし、の本当の、名前なんです》



《本当の、名前なんです・・・・・・》