目を伏せると、今でも思い出す。


雨の降る夜。

ずぶ濡れの恋人の身体。

ありえない方向に折れ曲がった手足。

中空を見つめたまま動かない瞳。


わたしの目は、無様にころがった『モノ』から離せないのに、視覚が映像を受け入れることを拒否した。


(コロシタ、コロシタ・・・・・・ワタシガ、コロシタ、ワタシ、わたし・・・・・・ヒトヲ、あのひとを、ころし、た・・・・・・)


搬送先の病院で泣き崩れるわたしの前に、突如現れた、故人の代理人と自らを称する、人工物のような美しい青年。


アンヌ・マリィというなぜか女名前の彼は、あの時確かにこう言ったのだ。


「死者の意志を継いで、私がきみの夢をかなえてあげよう。ただし、仕事をすればね。簡単な仕事だよ、篠宮修二くん」

頭の中をミキサーでかきまわされているときに、遠くに聞こえた『本当の名前』。

でもそれは、わたしの名前ではない。


名前ってなに? 

わたしってなに? 

死者の意思ってなに?

シンダ、シンダ、シンダ、死んだ?

誰が?

あのひとが?

なんで?

ワタシガ、コロシタ・・・・・・、から?


うつむいたままのわたしに、人形がささやきかける。


「いや、失礼。きみの本当の名前は、篠宮めありさん、だったね」