次の日、愛華は学校に来なかった。
俺は、愛華の家へ行った。

コンコン

『愛華、俺。入るぞ』
カーテンも閉まった真っ暗な部屋。
ベッドの上で体育座りをしながら顔を膝に埋めている愛華…。
『愛華…』
「みな…と。ごめんなさい…」
『は?』
「ごめん、ごめん…ごめんね湊ッ…」
どうして…どうして…?
『んでお前が謝んだよ…』
強気な愛華の姿は、全然なくて…。
「湊っ…たし…汚くなった…。ごめん…湊…ッめん」
“汚くなった”
ホントにそう思ってんのかよ…。
そんなこと、ねぇのに…。
「ごめっ…ごめん…『謝んな!謝んじゃ…ねぇ。お前が一番辛いのに…なんで謝んだよ!お前は、汚くなんかねぇ!謝らなきゃいけねぇのは、俺なんだよ。守るって言ったのに…守れなくてゴメン!あんな約束して…ごめん!お前が辛いトキ、そばにいれなくてゴメン』
俺は愛華をギュっと抱きしめた。
「うぅッ…湊ぉぉ」
愛華は俺の腕の中で、泣いた。
『愛華、警察にはいわねぇの?』
「ダ、ダメっ!警察は―…。言ったら…写真がッ…」
『写真…?撮られた、のか?』
ギュッと握っている愛華の力が強くなる。
『わかった。…犯人は必ず捕まえるから…。愛華、心あたりは…?』
愛華は首を横に振ったが…
「もしかして…」
そう、呟いた。
『心当たり、あるのか!?』
「でも、まさか…」
『言え!愛華』
「……田神さんに“どうなっても知らないから”って…。“あたしはちゃんと警告してあげたからね”って…。でも、普通こんなことしないよね。人疑うって、あたし最低じゃん」
『…愛華は最低じゃねぇよ』
愛華の頭をポンポンと撫でた。
『俺、そろそろ帰るな』
「ん」
おでこにキスをし、愛華の部屋を出た
田神…。
くそっ!証拠がねぇ…。
その時、電話が鳴った。
『もしもし?』
【湊?俺だけど】
『柊斗?どうしたんだよ』
【犯人、捕まえた。今○×倉庫にいるから来い】
『!分った』
俺は○×倉庫へ走った。

―――――………
『柊斗!』
「湊。こいつらだ」
『つーか、なんで犯人が…?』
「俺の顔を広さ、なめんなよ♪」
『頼りになるよ』
男たちは縄で縛られてた。
『…誰に頼まれた?』
「………」
『言わねぇと…殺すぞ』
俺は本気だった。
「佳那だよ…。俺らは言われた通りにやっただけだ」
『ネガはどこだ』
「佳那が持ってる」
『…わかった。…俺は、お前らのこと、一生許さねぇ。二度と俺たちの目の前に現れんな』
俺はそう言うと、倉庫からでた。
あとは…田神佳那。
明日…決着をつける。
次の日の放課後、俺は田神を呼び出した。
「湊くん、話ってなぁに?まさか、告白?」
『ざけんなよ…』
「え?」
『んで、なんで愛華にあんなことした!』
「…なんのこと?」
こいつ…!
『しらばっくれんな!!もう全部知ってんだよ!愛華をレイプした奴らに全部聞いたんだ!』
「…使えない奴ら」
『……は?』
「はぁ。あたし、ちゃんと愛華ちゃんに警告してあげたのよ?それを聞かなかった愛華ちゃんが悪いのよ。さっさと湊くんと別れたらよかったのに」
なに言ってんだよ、コイツ。
「あんな子と別れてさ、あたしと付き合おうよ♪あんなのより全然あたしのほうが可愛いじゃん?湊くんの株も上がるよ?ねっ♪」
コイツ…人間か?
「てか、レイプされたくらいで学校に来ないって、ダサ」

俺は田神が寄りかかっている木を殴った。
田神は、顔が青ざめている。
それもそうだ。
田神の顔のすぐそばを殴ったから。
『ざけんな。本気で言ってんの?だとしたらお前…人間じゃねぇな。…ネガよこせ。…よこせっつってんだよ!!』
「…は…い…」
田神はポケットからネガを出した。
『今度なんかしたら…どうなるか分ってんだろうな?…消えろ』
「ッ――!」
俺はその場をあとにした。
そして俺は、愛華の家へ向かった。
『愛華…』
「湊?」
『ネガ、奪ってきたから』
「え…?」
『もう、田神なんかにおびえなくていい』
俺はネガを燃やした。
『もう、お前を苦しめてた写真はなくなった…。お前が心に負った傷は、すげぇ深いと思う。…でも、ゆっくり、治していこう?ゆっくり…少しずつ、前へ進もう?愛華は1人じゃない。高松だって、柊斗だって、兄貴だっている、俺も、いる』
「ん…うん…っ…っ」
『泣くなよ愛華…』
「だって、湊がっ…優しい…」
『俺はいつだって優しいだろ?(笑)』
「ブスとか言うじゃ~ん」
『バカ…。愛してる、愛華』
「あたしも、愛してるよ」

やっと…幸せになれると、思ったのに…。
side佳那


今まで手に入らなかったものなんて、一つもなかった。
ほしい物を言えば、ママやパパが買ってくれた。
男たちが貢いでくれた。
これからも、そうだと思っていた。

転校先の学校で見つけた、今までに見たこともないイケメンな男。
矢原湊。
けど、彼は1人の女を想っていた。
谷本愛華。
あたしなんかより可愛くない。
なんでこんな女のほうがいいわけ?
今までの男なら、笑顔を向けてイチコロだったのに。
腹は立つ。

愛華ちゃんに告白した男もあたしが仕掛けた。
一部始終を録音させ、それを聞いた。
あぁ、湊くんは愛華ちゃんをホントに好きなんだって思った。
でも、あの子が汚くなったら、嫌うんじゃない?
そう思ったあたしは、実行に移そうと思った。
心優しいあたしは、警告したのに。
聞かなかったあの子が悪いのよ。

汚くなったあの子。
きっと、湊くんもあの子を捨てる。
そう思ったのに。
なんで?
どうして、あたしが責められるの?
あたしが悪いの?
ただ、手に入れたかったのに。
どうして、上手くいかないの?
どうして、彼は思い通りにはならないの?
もう、訳がわからない。
「ほんっとムカつく」
けど、次会ったらホントに殺されそう。
だからあたしは、姿を消した。
言っておくけど、反省なんかしてないから!!
side湊


愛華が学校に来るようになった。
毎日のようにデートもした。
何もかも、今までどおりに戻ろうとしていた…。

していた…のに。

なぜ、神様は俺たちに、たくさんの試練を与えるのですか…?


愛華がやっと…元に戻ったのに…。

俺とあいつを…引き離さないで―…。
『ただいまー』
愛華と放課後デートを終え、家に帰った。
リビングに集まっている、母さん、父さん、兄貴。
「湊。ちょっと来なさい」
『え…なに?』
重たい空気…。
「パパの転勤でアメリカに行くことになったの」
『……は?』
「今週末には、この家を出るわ」
『な…!!嫌だよ、俺』
「湊、仕方ないんだよ…」
『そんな!!やっと…やっと愛華と幸せになれると思ったのに…!アメリカなんて…遠すぎる!!』
「すまない、湊」
「ごめんなさい…」
『……─っ。わかった』
俺は部屋に入った。
『…っ…あいっ…か…』

ごめんな。
お前の傍に…いられない。