**次の日**
あたしはいつも通り食事をとり、湊の家へ。
おばさんに挨拶してから、湊の部屋に行った。
「湊ッ!起きてよッ」
シーン……。
あたしは乗っかる態勢に入った。
―マジで太ったな―
「……」
やめとこ…。
あたしはバシバシと湊を叩く。
『あぁぁ!いってぇぇ!!』
「おはよ、早く準備しなよ」
『?あ、おう』
どうして…こんなにも湊の言葉が響いてるの…?
「湊起きた?」
「あ、はい!」
「紅茶でいいかしら?」
「あ、ううん。今日はいいや」
「そう?」
「ゴメンネおばさん」
「ふあぁ。おあよ~」
寝ぼけながら優兄が下りてきた。
「優兄、おはよ」
「はよ、愛華。ん?紅茶飲まねぇの?」
「ん?ちょっとね~。ねぇ優兄?」
「ん~?」
「あ、あたしって…ふ、太った…かな?」
「ん?全然?何か言われた?」
「太ったって言われて……」
「ふ~ん。ちょっとおいで?」
「え?うん」
あたしは優兄の前に立った。
「よっと」
そう言うと、優兄は、あたしをお姫様だっこした。
「へっ!?ちょ、優兄!!??」
「あら~!絵になるわね~」
騒いでいるおばさん。
「ちょ、ゆ、優兄!」
「全然重くねぇじゃん」
「……へ?嘘…」
「嘘じゃねぇって!つーか、軽すぎじゃね?ちゃんと飯食ってんの?」
「ちょ、か、顔!近すぎ~」
ガチャッ
湊が下りてきた。
『……何してんの?』
「何って、お姫様だっこ?」
「ゆ、優兄ぃ!お、おろしてよ!」
「あぁ、ゴメンゴメン」
「もう!あ、でも、優兄!ありがとね?」
「どういたしまして♪」
『…さっさと行くぞ』
無理矢理手を引っ張る湊。
どうしたの…?
それを知るのは…
まだまだ先のこと。
俺、矢原湊。
俺には好きなヤツがいる。
それは…
隣に住んでいる幼馴染みの、
谷本愛華。
俺は、ガキのころから、ずっと好きだった。
ずっと…愛華だけを見てきた。
けど、アイツは鈍いからそんなこと気付いていない。
そして俺も、素直になれない。
いっつも憎まれ口をたたく。
こんなこと…思ってねぇのに。
いつも朝は愛華が起こしにくる。
「バカ湊ッ!起きろ~」
この言葉が出たら、俺に乗りかかる合図。
ドンッ
俺はわざとらしく、
『グエッ』
という。
目を開けたら…
「おはよう♪」
笑顔の愛華の顔が俺の顔の近くにあるのだ…。
バカか、コイツ。
そんな可愛い顔近くにあったら…
理性ぶっ飛ぶじゃねぇかよ。
だから俺は…
『さっさとどけブタ!重たいんだよッ』
こんなことを言ってしまうんだ。
着替えを終え、下に下りると、兄貴と愛華が喋っている。
そんな2人を見るのすら辛い俺。
兄貴にも嫉妬する俺。
だって兄貴は…優しくてかっこいい。
弟の俺からしても、そう思う。
だから、不安なんだよ…。
愛華が、兄貴に惚れるんじゃないかって。
すっげぇ不安なんだよ…。
俺と愛華はいつもニケツして学校へ。
俺の体をギュっと抱きしめる愛華にドキドキする俺。
そして、愛華を振り回す俺。
もっと、大事にしてぇよ?
けど…素直になれねぇ。
俺は、ひねくれた性格をしているんだ。
俺の優しさはどうやら兄貴に吸収されたらしい(笑)
そして今日、俺は愛華にヒドイ言葉を言った。
―マジで太った―
女子が言われたら、ぜってぇ傷つく言葉を、俺は愛華に言ってしまった。
―乗られるとマジで死にそう―
そんなの、嘘だ。
いつも、軽すぎって思ってる。
ちゃんと飯食ってんのかよって思う。
それに、すっげぇ嬉しい。
なのに…俺は、ヒドイことを言った。
ホントに俺は、最低だ。
―ダイエットしろよな~?―
そう言った瞬間、愛華の顔が曇った。
いや、その前から…か。
ダイエットしたら、コイツぜってぇ倒れるだろ!?
なんで、思ってるのと逆のこと言ってしまうんだ…俺は。
俺は…バカだ。
次の日。
愛華はいつも通り、俺の部屋に来た。
一つ変わったことと言えば…。
今日は俺に乗らなかったこと。
バシバシと叩かれただけだった。
愛華が出て行き、着替えている俺は、ずっと考えていた。
やっぱ…
『気にしてんのか…?』
どうすりゃいいんだよッ!
どれだけ考えても、正解にはたどりつけねぇ。
『あぁぁ!くそっ』
ホント…
情けねぇな。