走っている間、色々な事が頭を巡っていく。


厳格な父の顔。

優しい兄の顔。

父の怒った表情に、兄の困った表情。


だから注意が散漫になって



「きゃっ!」
「ぐふっ!」



男の子とぶつかってしまった。

小柄な男の子は後ろに倒れ、背中を強く打ったようだった。

心配になってその顔を覗き込むと、すごく整った顔立ちをしていた。

痛みに顔をしかめる彼に、声をかける。



「ごめんなさい。まさか人が居ると思わなくて……」

「あぁ、大丈夫です。気にしないで下さい」



苦笑混じりの顔はどこか可愛らしかった。

くりっとした丸い目が、僕を見つめ返して来る。

茶色っぽいストレートな短髪が、少し王子様を連想させる。


……って、相手は男なのになんて感想だ、僕。


何度か瞬きをして雑念を振り払う。