僕こと阪上郁弥は、私立河井学園の理事長室に居た。
「理事長、本当にすみません。僕たち親子のゴタゴタに巻き込んでしまって」
親父の古い知り合いだという理事長に、僕は深々と頭を下げた。
一見、恰幅と愛想のいいおじさんにしか見えない理事長。
そのイメージを全く裏切らない微笑みで、彼は立っている僕を見上げた。
「構いませんよ。むしろ、わたしとしては好都合ですから」
「え?」
「こんな面白いイベント、なかなかありませんからねぇ」
そう言って、本当に楽しそうに笑った。
それが少しだけ癇に障る。
「理事長。あなたの計らいには感謝してますけど、僕は真剣にーーー」
「すまないね。わたしは退屈が大嫌いなだけだよ。だから別に、君たち親子の賭けを軽んじている訳じゃないんだ」
でも言い訳なんて大人げないかな、と苦笑を零した。
そんな顔をされたら、怒れる訳がない。