それにシギはうなずく。



シギも一度、レイシアを救うために巨大な精霊を呼び出したことがあるのだが、その反動で数日間目を覚ますことができなかったのだ。



「……おそらく、本当に自然に発生した精霊だったのでしょう。

もしくは……」


「もしくは?」



ダグラスがそう聞き返すと、シギは少し目を伏せてから、口を開く。




「もしくは………
本物の神だったか。」





それにダグラスが顔をしかめたところで、店で商売に戻っていた店主が振り向く。



「ああ、そうだそうだ。

何年か前に不思議なことがあってなあ。」



その言葉にシギが弾かれたように顔を上げ、店主を見つめる。


「不思議なこと………?」



すると店主はまた2人へ近づき、言う。



「いや、な。

この西の地方は『風の丘』と呼ばれるほどだから、風が止むことはないんだ。

その日も風は吹きつづけていたというのに………


突然風見鶏が、ある方向を向いて、全部止まったんだ。」



それにダグラスもシギも目を見開く。




「風見鶏が……止まった?」



シギが呆然とそうつぶやくと、店主も顔をしかめる。



「ああ、本当に不気味だったよ。

みんながみんな、ある一点を見つめてるって感じだった。

風が止んで静かになるなんて、滅多にないことだから、なおさら、な。」


そう言って身震いするような仕種をする店主に、シギは切れ長の目を細めて聞く。



「………それから?」



店主は思い出すように空中を見上げ、口を開く。




「そうだな……

確かあれは夕暮れだったんだが…
しばらく、って言ってもたぶん数分だったと思うが、そのままだから、町中大騒ぎになりかけてなあ。

みんながざわつき始めたころに、風見鶏の指す方向から突然、すごい風が帰ってきたんだ。

まるで引き潮のあとに、津波がやってくるようでなあ……

いくつもの屋台が台なしになったよ。」



そこで客が呼ぶ声が聞こえ、また店主は屋台へと戻って行った。