私の名前は、七村佐奈。
私は高校を無事に受かり、新しい学校生活を始めようとしていた。
...ハズが、初日の授業に遅刻。大遅刻。
「最悪!!何なのよ、あの目覚まし時計!」
目覚まし時計に当たる私は、髪を整えながら家を出る。
もう10時。間に合わない。
「あ〜あ...」
ため息で足が動かない。
も、もう帰りたい...
家を出たばかりなのに。

「あれ、佐奈じゃん。遅刻?」
その声の人は、疲れて座り込んだ私の顔を、覗き込む。
「あ...蓮。」
蓮は、私の幼なじみ。
小さい頃から一緒で、二人でプールを習ったり、二人だけの手遊びを生み出したりしていた。
幼かったころの蓮とは変わって、少し大人になった。
そんな蓮を私は、ずっとずっと隣で想ってきた。
だけど、想いは1㍉も届かなくて。

「俺も遅刻。一緒に行こう。」
「...うん」
そう言って蓮は、私の手を掴んで歩きだす。
「佐奈はそーいうとこ、昔から変わってないな。」
「そーいうとこって?」
「遅刻したり泣いたり。」
「蓮だって遅刻じゃん。」
幼なじみだから出来る会話。
幼なじみだから言い合える仲。
幼なじみだから普通に手も握れる仲。
幼なじみだから...
私は蓮に女の子として見てもらえない。
「今日は初日の授業なのになー」
でもきっと、幼なじみじゃなかったら、好きになんてなってないんだ。
「佐奈ー、ジュース買ってこ」
だけどもし幼なじみじゃなかったら、蓮は私のことを女の子として見てくれるの?
「佐奈ー?聞いてる?」
でも私は蓮を小さい頃から...
「さーなー!!!?」
「うわぁっ!?」
「お前、俺の話聞いてんの?」
いきなり怒鳴られたからびっくりしちゃった。
「き、聞いてなかった...です」
「ボーッとしてんなよな。車にひかれたらどーすんだよ。」
「ごめん...」
怒らせた...?
「怪我すんなよ。」
蓮はそっぽを向いたけど、きっと心配してくれてるんだ。
少し幸せ。