「何もないにしたって、姫佳はそう思ってないよ」

「なんだって怒ってるの?」

 そう問うと、歩は一瞬ためらった。

「姫佳、気に入ってたらしいよ、先輩のこと。でも彼女が居るのが分かって諦めてたらしい。私も今日知ったんだけど・・・。だから、朱莉が一緒に教室に入ってきたのが気に入らなかったみたい」

「そんなっ」

 言いがかりにもほどがある。姫佳の気持ちなんて知らなかったのに・・・。やっぱりこんな時だからこそ、注意するべきだった。

「それで、朱莉を殴ってきてって姫佳が。で、久美が行こうとしたから私が阻止してきた。今から罵声浴びせながら殴ろうとするから、そこに手を置いてて」

 顔の横に手を置くように、歩が手を持ち上げた。