咄嗟に振り向くと、声の主は歩だった。

「あゆっ」

 歩の名前を言おうとした瞬間、瞬時に口を手で覆われた。

「しっ」

 歩は手で口を覆ったまま、声を発さずに携帯を見せてきた。歩に押されて、私は壁にドンっとぶつかった。

『姫佳たちが外に居る。大きな声出しちゃダメ』と携帯には書かれていた。こくんこくんと頷くと、歩の手がゆっくりと離れた。

「姫佳が怒ってるの。なんだってあの先輩と一緒に居たの?」

「ちょっと色々あって・・・。何もないよ」

 外に声が漏れないように、こそこそと話し始めた。