「キーンコーン•カーンコーン」
「キーンコーン•カーンコーン」
春、麗らかな風が背中を押す。
春、新しい出会い。そして別れ。
春、希望と不安に満ちた更なる出発。
春、それは…
「はい、今日から君達の担任になりす。南本尚子です。これから1年間君たちと過ごす上で私と約束して欲しい事があります。」
1人の生徒が言った。
「何ですかぁ?」
「まー焦らない 焦らない」
教室には、失笑が鳴った。
多分普段なら全く聞こえないのだが静かな教室には、その失笑は、響いた。
「はい、聞いて。みんなは今まで小学校、中学校と過ごし今から少しづつ大人の階段をゆっくりだけど、何故か早く感じる位のスピードで1段づつ上がっていきます。最初は順調だとしても時には躓いたり。転んだり。なかには、転がり過ぎて落ちてしまう事もあるし逆に何段も跳ばして進んでしまう事もあると思う。でも、みんなには何があっても、諦めないで最後まで、登って欲しいの。」
「これは、1年間じゃなくてこの先ずっと約束だね」
あの時、俺は静かな教室の雰囲気やクラスメイトの顔そしてセンコーの顔は全く見てもいないし覚えてもいない。
そしてクラスの奴等には、聞こえたのかどうか解らないが、俺には聞こえたような気がする。
「私にはのぼることも出来なかったから。」
南本尚子、このセンコー歳は今年三十路よく聞くマドンナ先生だ。
ルックスは世間で言う所の美人だ。
学生時代はモテたのではないだろうか?
現在は彼氏なし。
でも噂では、何か訳あり教師だという。
俺はあまりそういった類いの噂話は、信じないし気にもとめない。
だが、訳あり教師と聞いて何か変な妄想を抱いた奴はいるか?
恥じる事はない俺と同類だ。
「はい、では出席をとります」
「相沢さん 相沢なつみさん」
「はい」
「続いて……」「木村友希さん」 「白石智子さん」
とのように規則的に名前が呼ばれそれに淡々と返事が鳴る。
さすがに、佐藤や田中などよくある名前の奴はいないが特に珍しい名前の奴もいない。
「畑中涼さん」
「はい」
畑中涼、後に俺が惚れる人だ。
その話は、結構いい話もあるし今は辛いから、後でゆっくりすることにするよ。
「山本裕美さん」
「はい」
「以上、女子20名全員出席」
センコーは笑顔で言った。