■悔し涙
○Side 奈穂

【俺、怪我してて出来ないの】

可愛らしくキスをねだる彼女に真中くんは、意地悪にそう言う


見たくないのに見てしまった
帰り道が…一緒だから…


なるべく目を合わさず通りすぎよう
そう思いながら俯き、2人の前を通過した


すると突然、真中くんは足を早め追いかけてくる

何で?
どうして?

貴方にはあんなに可愛い彼女がいるじゃない


振り切るようにして逃げるが女の足で敵うわけがなかった

すぐに追い付かれ腕をコンクリートの石塀に押し付けられてしまう


『離して…』

悔しくて涙が出る

追い付かれたからか…
それとも彼女との関係を見せつけられたからか…

何が悔しいかなんて自分でも解らない
だけど悔し涙は止まらなかった



しばらく言い合った後、真中くんの唇がそっと私の唇に触れた

傷付いた箇所が熱を持ってる

『怪我してるからキス出来ないって言ったじゃないですか…』

彼女にはそうはぐらかしてたじゃない
何で私には…


『奈穂にしたかったから』

意外な言葉の後、華奢で長い指が唇を撫でた

女の子と違い柔らかさのない指…

噛んで逃げてしまおうか

【したかったから】

何で…?
何で私、動けないの…?