■おかえり
○Side 奈穂

施設に向かうため、乗ったのは始発電車

『ハァ…』

電車はコレが始発だし、洋がわざわざ夜中にタクシーなんて使うかな…
歩くなんて到底無理だし…

あそこにはいないかも知れない

そんな不安と淡い期待を胸に抱き、電車はあの駅へと近づいていく




電車を降りた時には空は明るくなっていた

ふと下を見ると海が朝日を反射させて眩しいくらいに輝いている

【奈穂のファーストキスはどうだった?】
【洋くんが無理矢理に奪ったじゃないですか!】

そういえばここで初めて言われたんだ…

【好きだよ? 奈穂…】

アレは冗談だったけど、すごく嬉しかったんだよ…?

そしてその先
あの緑の木が覆い茂った場所で…

【愛してる】

何度も聞かせてくれた
何度も何度も…



『…洋…?』

遠くに見える大きな木の下に見慣れた男の子の後ろ姿を見た

まさか…
でもあの後ろ姿…

私が間違うはずがない
誰よりも自信がある

『っ洋!!』

全速力で後ろ姿に駆け寄る
驚いたように振り返ったその人物はやっぱり洋だった

『ハァハァ…洋…ッ 何でここに…』
『…奈穂こそ、何で…?』

洋はキョトンとした様子で私を見る

『何でってッ 朝、起きたら洋がいないから!』
『ごめんごめん… 奈穂が起きる前には帰るつもりだったんだけど…』

バツの悪そうに笑う洋


『それよりここにいるって事は…『海、見てきた?』

私の言葉を遮るように洋は言葉を発する

『あの… 海って…』
『俺達がキスした海』
『…え…?』

それってさっき見てきた海…
でも何で洋がそれを…?

『ごめんな? アレを本当のファーストキスにしてやれなくて…』

切なく笑う洋の胸に私は思わず飛び込んでいた

『ヒッ…ク…! ばかぁ…ッ』

まるで子供のように泣きじゃくる
そんな私にそっとキスをくれた

少ししょっぱい涙の味…

『…ただいま…奈穂…』
『おかえり…なさい…ッ』

本当に…
おかえりなさい…