■パパのお気に入り
○Side 奈穂

帰り際、洋くんは突然こう言った

『奈穂を会わせたい人がいんだけど…』

はにかんだように笑う洋くん
会わせたい人って…

『誰…ですか?』
『俺の母親』
『………えッ?!』
『会いたくない?』

失礼かと思ったけど、私は言葉に詰まってしまう

母親の事なんて記憶ないんじゃ…
それに虐待されてたって…

でも…
見たくないと言えば嘘になる

『…行きます!』
『んじゃ明日の朝に迎えにくるよ とりあえず今日は帰るね!』

洋くんはヨシヨシと頭を撫でると上着を持って立ち上がった

『玄関まで送ります!』

私も立ち上がってドアを開ける

その時…

『2人共、お父さんが帰ってきたわよー?』

と、一階からお母さんの声がした
何となく嫌な予感…

『あ、洋くんの靴じゃないかコレ! 母さん、ビール出しといてくれ!』

靴とビールが何の関係があるんだろう…

ちらっと洋くんを見ると、彼もまた引き攣り笑いをしていた

きっと予感は的中…?

『ごめんなさい… 飲んであげて…?』
『…やっぱりか』
『…』

深く溜め息をついては私達は降りた





お父さんの気に入りようは異常な程で、夕飯の間も隣の席
テレビを見るのも同じソファー

そして夜には前回同様、部屋にお持ち帰りしていた…