カチカチと時計の針の音が鮮明に聞こえる。
6月独特の湿っぽい風が今はなぜか心地好い。
スッキリしたい気分じゃないからか。


このまま消えちゃわないかな。


俺は思う。
“深山佑宇哉”という存在が初めから存在しなかったことになって、消えてしまわないか、と。
そうしたらどれだけ楽か。

もう終わりの俺の人生に終止符を打てるじゃないか、と。

死ぬ勇気はない。

だから消えてしまわないか、と。


俺がそうやって考えていると、保健室のドアが開いた。


あ、教師が帰ってきたか…。


俺が『はぁ』とため息をつくと、啜り泣く声が聞こえた。
驚いて振り返ると、そこには長い栗色の髪の女の子がいた。

その子はまだ泣いている。
表情を読み取ろうにも、女の子の伸びっぱなしの前髪が邪魔して見えない。


するとその子は、俺がいることに気付いたらしく顔を両手で隠しながら勢いよく保健室から出て行った。


なんだったんだ…
不思議な感じの子だったな。