「実緒、実緒〜、津波が来る!…避難しろぉ!」

玄関先から、塩田は、愛妻の名前を叫び、津波の到来を知らせた。

すると家の中から、

「避難の途中で津波が来ると怖いので、2階に逃げようと思います。」

と、実緒の声がした。

「そうか…、2階なら大丈夫だろう。悪いが、庁舎に戻るから…。」

塩田は、予想される津波の高さと自宅の立地条件を考えて、そう答えると、庁舎へ引き返した。

「気をつけてくださいね。」

と、塩田を心配する声を背中に受けながら。