僕に突然嫌な予感がよぎった。

手や足が震えて動けなかった。

携帯が鳴った。礼の携帯からだ。

『もしもし』

『優也くん?…実は礼が…』
礼の母親からだった。

僕は無我夢中で病院に走った。


外は小雨がふっていたのも気にせずに。


病院についた頃には大雨になっていた。



礼の病室では礼の母親が泣いていた。



僕はなぜか涙が出てこなかった。

悲しいはずなのに、涙が出てこない。

礼は笑顔のまま眠っていた。
そのまま起きることなく。


『礼…君に会って、付き合って、別れて、また出会って、泣いて、笑って、もし君に会うことが運命として決まっていたなら、君は僕に何を伝えようとしたの?…礼…これは一生の別れになってしまうのかな?…僕は別れを受け入れなきゃだめ?…礼…教えて…僕がこれからどうしたら良いのか…礼がいなくなると…寂しくなるよ…礼…ありがとうって言葉は幼い頃に意味とか習った記憶ってあんまりないんだけどね、最初から意味を知っていた気がするんだ…きっと人に感謝することは、もとから僕たち人間にそなわっていたんだよ…礼…君はもう目を開けないの?…礼…君に会って僕は変わった…
礼…




………





……………




【ありがとう】