太陽が夕日へと変わり、景色はオレンジ色へと染められ始めた。魅麗は、窓辺に立って、そよ風にあたっている。静かなアトリエ。怜樹は、絵を完成させると、色筆を静かに置いた。そして、そよ風にあたっている魅麗を、そっと見つめる。
「魅麗」
怜樹は、落ち着いた声色で魅麗を呼んだ。
「うん?」
怜樹に呼ばれて、魅麗は、そっと振り返った。怜樹は、今までに見たことのない静かな顔付きで、真面目な表情で魅麗を見つめていた。魅麗は、そんな怜樹に何も言えず、怜樹を不思議そうに見ていた。怜樹は、ゆっくりと言った。
「魅麗を…描きたい」
「え?…私を?」
「うん」
「え…。そんな、なんだか恥ずかしいわ。絵のモデルなんて、やった事がないですもの」
魅麗は、何故、怜樹がそんな事を言ったのかと思いながら、戸惑いをみせた。
「魅麗が日本に帰ってしまって、離れ離れになっても、僕は、決して君の事を忘れはしない。だけど…、君は側にいないから、寂しい。だから、君の絵を、側に置いていたいんだ。もし良かったら、だけど…」
怜樹は、とても綺麗な清んだ瞳で、魅麗を見つめていた。魅麗は、その瞳に吸い込まれそうだった。こんなにも男の人と見つめ合った事はなかった。どれくらいの時間が流れたのだろう。もしかしたら、それほど時間は経ってはいなかったのかもしれない。このまま、時間が止まればいいのにと、魅麗は思った。怜樹は、魅麗を見つめたまま、静かなに言った。
「君を…描きたい…」
怜樹の清んだ声が、魅麗の心に響く。魅麗は、自分の心の高鳴りが、怜樹に聴こえてしまいそうで…。そっと風が通りぬけ、静かな空間の中で、風の音だけが囁く。魅麗は、怜樹が描く、綺麗な色彩で彩られた自分の肖像画を想像し、心が震えた。魅麗は、怜樹を見つめ、そっと小さく頷いた。