美青年の彼との沈黙の間に耐えきれなくなった魅麗は、そっとその場を去ろうとした。
「あっ、待って」
「え?」
「今からのご予定は?」
「え?………」
「お忙しいですか?」
「はい?」
魅麗は、目を丸くした。
「僕、絵を描くのに没頭していて、朝食べたきり、それから何も口にしてないんです。だから、ご一緒して下さい」
「はぁ?………」
魅麗が呆気にとられているのを構わず、彼は、さっさと素早く絵を片付けた。
「よし!じゃあ行きましょう」
彼は、魅麗の手を取って歩きだした。
「えぇ!?」
彼は、おかまいなしに魅麗の手を取って歩いていく。そして、人混みに入ると魅麗をかばうようにしたり、素早く歩道の内側に寄せたりした。魅麗は、呆気も通り過ぎ笑いが吹きだした。彼は、その様子にきょとんとし尋ねた。
「どうしたんですか?」
「だって、初対面なのに、貴方、強引なのですもの。お名前もまだ聞いてないのに」
魅麗は、涙目になりながら笑って言った。
「あぁ。ハハ…ハハハハ」
彼は、我に返り笑いだした。
「そっか。そうですね。すみません。あ、僕は、美咲 怜樹といいます。よろしく」
彼は、苦笑いと照れ笑いを交えながら言った。
「私は、花村 魅麗です。よろしく」
「はい。…改まると照れ臭いんですよね。だから、苦手で…、すみません」
怜樹は、さっきの強引な時とは違って、うぶな一面を見せた。魅麗は、そんな彼も素敵だと感じた。
「どこに連れていってくれるの?」
そう言って、今度は、魅麗の方から怜樹の手を握った。こういう事は男の方からと思っていた怜樹は、魅麗の行動に一瞬驚いたが、なんだか新鮮さを感じ、笑顔で魅麗の手を握り返した。
「よし!じゃあ、とっておきの場所に連れていってあげる」
怜樹は、魅麗の手をひいた。怜樹に手をひかれながら、こういう出会いがあるなんてと、魅麗は、怜樹に特別な想いを抱き始めていた。怜樹も、今までに出会った事のない魅麗という女性に、新鮮な感情を感じた。
怜樹は、魅麗をお気に入りの隠れ家へと連れていった。アンティークな店内に、ランプの灯。古風で神秘的なその場所に、魅麗は、心奪われた。
「どう?」
薄灯の中、魅麗を見つめながら、怜樹は尋ねた。
「好き…、こういう所」