いつもと雰囲気の違う様子に、怜樹は、不思議に思って魅麗を見ていた。
「ここに座って」
魅麗が、自分の座っているすぐ側に手を置き、そっと促す。
その表情は、真顔にも、哀しげにも見えた。
「どうしたの?」
怜樹は尋ねながら、魅麗に歩み寄り、言われた通り座った。
そして、魅麗の言葉を伺う。
午前の陽射しが差し込む窓辺。
真っ白なシルクのキングサイズのベッドに、腰をかけたまま、暫く、二人の間に沈黙の時間(とき)が流れた。
怜樹は、黙って魅麗を見ながら、次の言葉を待っていた。
魅麗は、何故か、うつ向き加減のままで黙っている。
怜樹には、さっぱり理由がわからない。

しかし、魅麗の表情が深刻に何かを考えている様にも見えたので、怜樹は、黙って伺っていた。
けれども、すぐに耐えきれなくなって、怜樹は、思わず笑って言った。
「何!?どうしたの?呼んだのに、黙ってるし」
吹き出す怜樹に、普段と変わらない様子を感じたが、涙跡の事が凄く気になっていたので、真面目に尋ねてみようと、魅麗は、意を決して口を開いた。

「何でも話して」

魅麗は、涙目になっている。でも、表情は真顔だった。なんとなく、敢えて落ち着いて真顔で言おうとしている様に見えた。
「話してるよ…?」
怜樹は、きょとんとした。
「…うん…」

目を落として頷く魅麗に、怜樹も頷く。
魅麗は、考えていた。

『泣いたなんて、恥ずかしいから言わないのだろう、きっと……』

魅麗は、下唇を噛みしめ、改めて意を決した。
「泣いてたん…でしょ?…」

その言葉に、怜樹はハッとし、魅麗から、目を反らした。
泣いた理由の本人に、泣いた事が知られて、怜樹は、バツの悪い思いでいっぱいになった。そして、とっさに取り繕う事もできなかった。
いつも、何でも笑い飛ばす怜樹が、今日はそうではない反応に、魅麗は、やはりひとりで悩んでいるのだと、確信する。

「私に言って!…何ができるか、わからないけれど……」
魅麗は、突然、力強い口調で言ったかと思うと、ボロボロと泣き出した。
「ちょっ、ちょっと、どうしたの!?」
怜樹は焦って、必死に魅麗をなだめる。
「何で泣いてるの!?どうしたの!?」
「だって……聞こう聞こうと思ってて、でも、勇気がなくて……」