魅麗は、自分の肖像画を見て、素直に嬉しかった。
「怜樹が、私を描きたいなんて思わなかったら、私は、こんな素敵な感情に出会えなかった…」
魅麗は、怜樹に感謝の気持ちでいっぱいになった。
そして、この絵によって、自分が幸せな気持ちになっている事に気付く。
「こういう事なんだ…」
魅麗は、以前に怜樹が言っていた言葉を思い出した。

【たかが僕の絵で、心を明るくしてくれたら………】

「…凄いなぁ……」
魅麗は、今、実感している自分の感情を噛みしめながら、深く理解した。
そして、ずっと絵を見つめていた。
自然と表情が和む。
「怜樹には、人の心を動かす、そういう力がある………」
魅麗は、確信した。
とても幸せな気持ちだった。
いつまでも、いつまでも、この感情に浸っていたい、そんな気持ちだった。

暫く見つめていると、ふと、ある箇所に目がいった。絵の端に、何かの雫。
「……涙……?」
魅麗の脳裏に、さっき、目覚めた時に見た、目を腫らしていた、怜樹の顔がよぎった。

「泣いてたんだ……」

魅麗は、驚いていた。と同時に、戸惑っていた。
怜樹の泣いた姿など、見た事がない。
「どうしてなんだろう…」
魅麗は、わからなかった。
いつも明るくて、あっけらかんとしている怜樹。
よく、女性は実際の年齢よりも、精神年齢が高い。男性は、実際の年齢よりもまだまだ少年の心を持つ、ロマンな生きものだという。
25歳の魅麗に映る、まだまだ若い、二十歳の今時の青年。

魅麗は、怜樹が泣いていたなんて、予想意外でしかなく。
一睡もしていないから目が腫れているのだ、という事しか頭になかった。

「何か心配事でも?人には見せない悩みを抱えているのかしら…。そうなら、こういう時、私はどうしたらいいのだろう…彼に何ができるだろう…」

魅麗は、ひとり、真剣に考え込んだ。

考えが定まらず、さっき、怜樹が開けた窓辺に立つ。
燦々と輝く太陽の陽射しと、涼しい風が入ってきた。
魅麗は、自然の力によって、だんだんと心が落ち着いていくのを感じた。
心が落ち着き、冷静になっていく。
冷静になると、考えもまとまる。
「自然にまかせよう。自然に導いてくれるはず」

落ち着くと、心にゆとりが生まれた。