怜樹は、何とも言えない気分だった。
キャンバスの前に座って、自分の描いた魅麗の絵を、茫然と見つめていた。
「どうしたんだ、僕は……」
徐に立ち上がり、窓を開けた。眩しい陽射しとともに、風が入ってきた。
「あぁ……。気持ちの良い風だ……」
怜樹は、窓辺に立って、太陽の陽射しと、涼しい風を、一身に浴びた。
心身が、浄化される様な思いだった。
時間を忘れた。
怜樹は、いつもの自分を取り戻していく気分だった。
「とても良いお湯でした。有難う」
上がってきた魅麗が、声をかけた。怜樹は、気付いていない様だった。
もう一度、声をかけようとしたが、怜樹があまりにも美しくて、魅麗は言葉を呑んだ。
窓辺に立つ、美青年。風に吹かれ、陽の光を浴び、まるで、天使だった。
「…絵だわ…」
魅麗は、見とれていた。
出会ってから、何度も思わされた事だが、男性を美しいと思ったのは、彼が初めてだった。
ふと気付き、怜樹は振り返った。
「あ。上がった?」
「うん」
「ガウンわかった?」
「うん、わかった。有難う。とても良いお湯でした」
「それは良かった。じゃ、僕も入ってくるね。寛いでて」
「うん」
怜樹は、いつもの様に言い、階段を降りて行った。
目の腫れは少しひいた様だったが、まだ、少し腫れぼったくて、魅麗は、気になっていた。でも、いつもと変わらず明るくしている怜樹に、魅麗は、もう、聞けずにいたのだった。
怜樹の降りて行った後の部屋で、ひとり佇む。しかし、すぐに、もう考えるのはよそうと思った。
「あっ、そうだ!」
魅麗は、自分を描いてもらった事を思い出し、部屋の端に置いてあるキャンバスを見つけた。そっとキャンバスに近寄る。
魅麗は、期待と不安でドキドキしていた。
キャンバスには、布がかかっていた。
「どんななんだろう…」
魅麗は、一呼吸をして、そして、布を取った。
「!!、…わぁ………」
そこには、なんとも言えないほど綺麗な色彩で、自分が描かれていた。
魅麗は、感激した。
嬉しくてたまらなかった。
涙が込みあげてきた。
こんなにも、嬉しいものなのか、と、思い知る。今まで味わった事のない、感情だった。
「有難う…有難う……こんなに素敵に描いてくれて、怜樹は、日本へ帰る私へ、最高の思い出をくれたわ……」