泣いて、泣いて、泣き疲れて、怜樹は、うなだれた。
「誰も見ていないから、沢山泣いたな…」
怜樹は、座ったままひとり呟き、両膝に両手を付き、うつ向いていた。
真っ暗だったカーテンが薄明るくなった事に気付き、夜が明けたことを知る。カーテンを一枚分開けていた窓から、和かな光が差し込んできた。
「朝か……」
怜樹は、ゆっくりと立ち上がると、窓辺へ行き、まだ眠っている魅麗に気を使って、カーテンを閉めた。魅麗は、揺り椅子で気持ち良さそうに、安らかに眠っている。そんな魅麗の寝顔を眺めながら、怜樹は、そっと、そのままにしておこうとしたのだが、やはり、布団の上の方が、もっと寝心地が良いのでは、と、思いなおした。怜樹は、静かに近寄り、ベッドへ運んであげようと、魅麗を両手で抱きかかえようとした。
「あ、………」
怜樹は、自分が女性を抱きかかえた事がない事にハッとし、我にかえる。怜樹は、これまで、強引に、魅麗の手を握った事はあったが、それ以上はなかった。魅麗に優しく接する中で、道を歩いている時など、彼女が危険に遭遇しないように察する事はあっても、魅麗に必要以上に近寄ったり、抱き寄せたり、ましてや、抱きかかえたことなど、怜樹は、一度もしたことはない。
「…どうしよう」
怜樹は、考え込んでしまった。
「下手に動かすと、起こしてしまう。やっぱり、このままにしておこう。うん、それがいい」
怜樹は、上手に抱きかかえられるか、したことの無い事に自信がなくて、自分に言い聞かせるように、心の中で呟いた。怜樹は、そっと、魅麗の側に腰をおろした。
朝日でだんだんと明るくなっていく部屋の中で、揺り椅子で健やかに安らかに眠る魅麗の寝顔を、怜樹は、優しく見つめていた。彼女を見つめているうちに、怜樹にだんだんと彼女を愛しいと思う気持ちが、込みあげてきた。次第に、その感情は大きくなり、怜樹は、押さえきれなくなってしまった。魅麗を抱きしめたいと、強く思った。
気が付くと、怜樹は、魅麗の頬に、手を伸ばしていた。初めて触れた、彼女の柔らかな頬の感触に、我を忘れた。
怜樹は、そっと立ち上がった。そして、彼女に両手を伸ばす。
怜樹は、ゆっくりと、魅麗を抱きかかえた。