………もしかして、
「俺って、人間だったのか……?」
ポツリと呟いた一言が、やけに室内に響き渡った
穏やかな風が外の森の木々を揺らす、風が通り葉と葉が揺れ擦れザワザワと音を立てていく。
俺は人間だった……?
じゃあ今は幽霊……とか?まあ確かにこんな変な身体だから、そうかも。ああ、そうなんだろう。
変な感じだった。
いくら探しても見つからなかったパズルのピースが空から降ってきたかのように、突然にやってきた。ずっと分からなくて考えることを諦めた答えが埋まっていく。そんな感じ。
埃の溜まった古びた床の上に置いていた右手でギュッと拳を作って、……カサリ、と何かが小さな音を立てた。
音のした方に目を向けると一枚の紙が床に落ちていた。
拾い上げようと手を伸ばすが、紙を掴む為に握った手は紙を通り抜けて空を掴んだ。俺の身体は物質を通り抜けてしまうのだから、この紙も例外ではなかったようだ。掴めるはずがない。
伸ばした手をゆっくりと引っ込めた。
《進路希望調査票》
規則正しく並ぶ文字を追っていくと進路に関する記入欄があったが真っ白のまま。少し後に一行だけ、大人びた綺麗な筆跡で氏名だけが書かれていた。
「一ノ瀬…心」
先程の高校生の名前であろうその文字を指でなぞるようにして声に出す。不思議な響きだ、どこか懐かしいような暖かい音。
サワサワと風が葉を揺らす。虫達の囁くような小さな鳴き声はそれに合わせて歌うようにどこからともなく聞こえてくる。
夜が始まろうとしていた。