立ち上がってグシャグシャの制服と髪を整えて帰ろうとしたけど、彼は座ったままで動こうとしない。
「えっと、帰らないんですか?」
「あー……うん。帰らない……かな?」
返ってきた曖昧な答えに首を傾げたくなるが、生憎私はそんなに可愛い性格でもない。
何か帰れない事情があるんだろうか、だとしたらとても失礼な事を聞いてしまった。謝る……べきだよね、ここは。
「……あ、あの、すいません私、無神経な「ほら、俺人間じゃないからさ」
頭を下げる途中の中途半端な格好で、固まった。
えーっと、………はい?
………えー、えーっと……
「………はあ…」
何とか口から出てきたのは何とも間抜けな声で、そんな私を気にする様子もなく彼は口を開いた。
「だけど不思議だね。何人かここに来たけど俺のこと見える奴も、声が聞こえる奴も、こんな風に話せる奴なんていなかったよ」
そりゃそうだよ。それが通常だよ。
声にならない声を心の中でぼやきながら、「人間じゃないから」という彼の言葉を理解させる為に頭の中で反復する………が、どうしても私の頭はそんな非現実的な事を受け入れようとはしない。
「あ、もしかして信じてない?」
「………すいません、私そろそろ帰らないといけないので。えっと、色々ありがとうございました、さようなら、お元気で」
早口で言葉を並べて一礼して引き戸を開いて外にでて戸を閉める。
その動作を一気に終わらせて、私は足早に神社を後にした。すっかり良くなった空模様とは反対に、私の頭の中では彼のことがグルグルと渦を巻くように存在していて、私はとりあえずの結論を出して無理矢理それを終わらせた。
彼は変人ではあるが人間だ。
心のどこかに引っかかったままの、自分でもよく分からないモヤモヤを無視したまま、そこ結論を自分に言い聞かせるように何度も頷いた