「ねえ、」



轟音の直後に鼓膜を振るわせたのは、光る男の静かな声だった。


俯いていた顔を上げて男を見ると、男は自分の隣の床をトントン、と叩いた。こっちにおいでという意味なんだろうか。見知らぬ他人に、というかそもそも人間なのか分からないこの人に近づいても大丈夫なのか。
 
思考を巡らせているとまた光った、直後にドンッ!と今までと比べものにならない程の雷鳴が空気を震わせた。

落ちた、凄く近くに、落ちた



「っ………」



心臓の音が速いし、煩い。駄目だ、怖い。

私はどんな目で彼を見たんだろう。反射的に向けた彼の細められた瞳はとても、とても優しく私を見つめていた。



「おいで。何もしないから」

「っ、……すいません……っ」



力の入らない足腰を無理矢理立たせて彼の隣に座った。すっかり水分を吸ったタオルを握り締めて、雷が見えないようにギュッと目を瞑って雷鳴に耐える。


雷の音が段々と遠くなるにつれて、叩き付けるような激しい雨音も小さくなって身体の震えが収まっていく。だけど、身体の震えが収まる前から気持ちは少し楽になったのは、彼が隣にいてくれたお陰なのかもしれない。って思うほどに、彼の周りの空気は不思議なくらい穏やかだった。



「雨、止んだみたいだよ」

「え?あ……ほんとだ」



彼に言われて初めて雨が止んだ事に気付いて鞄の中の携帯をチェックすると、もう18時をまわっていた。いつもよりだいぶ遅くなるけど、今日は美容院に行くって言っておいたし、大丈夫だろう。