「憂くん?」

隣にいた女の人が彼を呼んだ。

彼は女の人を無視して、
私を見ていた。



じっと、覗き込むように。



「嫌な事を無理矢理維持する事に、意味はある?」



彼はそう言った。


女の人ではなく私に。


彼女は途端に嫌な顔をして、
私を睨み付けた。


空気がビリッと音をたてるくらい強い

”念”

みたいなものが、

肌をヒリつかせる。



「嫌な事と、不必要なモノが一致するとは限らないでしょう?」



私はそう返した。



この男の人は違う、と思った。



そう、

私より鋭く人を見抜く力を持っているのではと。



隣の男がキョトンと私を見たのがわかった。

「知り合い?」

聞かれて、

「そんなとこ。」

と答えておいた。


この男には、
それで十分なのを知っていた。


「そっか。」

案の定、男はそれだけ言って

二杯目のラーメンのスープを飲み干した。


出そうになった溜息を飲み込む。