私にこの男の味覚が合わないというのは、

付き合い出してすぐにわかっていた。



しかも、

その食べ方が大嫌いだった。


それは別れる決め手には欠いているのだけれど、

すでにこの男を愛してはいなかった。



半分食べたところで、
その脂っこいスープに吐き気がしてきた私は

箸をおいた。


「お腹いっぱいだから食べて。」



今日、
何度目の嘘だろう



と思った。


考えはじめて、
馬鹿らしくなってやめた。


「お前って本当、少食だよな。」

男はそう言って、

自分の分のスープを全部飲み終えた後、

私の食べ残しに手をつけはじめた。


鉄の胃袋だわ、

と思ったけれど口にはしなかった。


ただでさえ、

この人込みで気分が悪いのだ。


触れてしまって心地いい魂なんてほんの一握りで、
皆どこか濁って陰鬱だった。


触れて、

感じてしまうと、

頭の奥がズシンと重くなる気がした。