「だって、歪んだり濁ったりした魂に触れると、気分が悪くなるんだもん。」


彼は頷いた。


「それはわかる。たぶんそういう人は僕も苦手だ。」



面白い会話だった。



こんな風な話をしたのは初めてで。


運命とかそういうのは大嫌いだけれど、
彼に出会えた事が嬉しかった。


「それで機嫌が悪いときが多いんだ。」


そうだ。
はじめて会った日も、
さっきも、

物凄く機嫌が悪かった。



「アレはそんなんじゃないよ。」


彼はそう言って苦笑した。



また読まれた、と思った。



アレというのは、あの時隣にいた女の人で、

そんなんじゃないっていうのは、
彼女とかそういう関係ではないという事だ。


今、私が思った事そのまま。


彼女がつけていた香水の匂いも、まだ覚えている。


「でも、少し魂が揺れてるわ。」


私は言った。

彼は目を見開いて、そして笑った。



「言い寄ってくる女性は沢山いるけれど、彼女ほど強引な子ははじめてなんだ。」

「生徒さん?」



思わず口にしていた。

まぁ、言わなかったところで読まれるのがオチだけれど。



「そう。僕と6歳もちがう。」

彼は言って私を見た。



私とはきっと、
もっと違うわって心の中で言ったら、

彼は唇の端を微かに持ち上げた。


「僕は深浦 憂。27歳だ。君が思っているのにとても近い仕事をしている。」


とても近いって事は、そうではないのだろう。



ようするに、精神科医ではない。



おそらく、そういう事を研究しているほうだろう。