カウンセリングが終わったら帰っていいという話だったので、
私はとりあえず図書室に向かった。
帰ればいいのに、と心の奥で私が言った。
それでも私は適当に本を選んで椅子に腰かけた。
彼が必死に私の気配を探っているのがわかるから。
あの靄が、私の後をついてゆっくりと流れて来るから。
彼は普通ではない。
何が普通かは別として、
一般的に見て、
彼は見える筈の無いモノを見ているのだと思う。
だから彼は、
私の心の中を覗き見たり、
気配を探ったり、
外からの干渉から私を守ったりするのだ。
私はそういう人間にはじめて会った。
私が動くのをやめたのがわかったのか、
彼の魂は落ち着きを取り戻した。
凪ぎの海みたいだ、と思った。
大きくて、
広くて、
圧倒的な力を持った海が、
息を潜めるように静かになる瞬間。
鏡のように滑らかなのに、私の姿を映すことはない。